台風の湯河原
こんな台風の日に思い出すのは、湯河原の石葉に泊まった時のこと。
湯河原は箱根や熱海に比べて地味で静かな所だが、昔から行ってみたかった場所。
部屋は離れの観月庵。名前のとおり月見台のある気持ちの良い部屋だった。
着いて明日葉茶と一緒に出された金つばがとても美味しかった。
小梅堂という地元の老舗のお菓子屋さんのものだという。
お料理は見た目の派手さはないけれど、丁寧に作られた奇をてらったところのないとても美味しいものだった。秋上がりの初亀というお酒と一緒に頂いた。
二人ともあまり飲めないので一合で酔っ払ってしまった。
二人で泊まる時はいつも何故か不思議な天気になってしまう。
最初は大嵐、二度目は大雪、湯河原ではその年最強の台風。
『観月庵だから月が見えるといいね』と楽しみにしていたのに、着いた時から雨が降り出して観月庵どころか観雨庵になってしまった。
雷も鳴り始めて近づいてくる台風が少し怖かったけれど、降り続く雨と風がとても不思議で印象深い景色を見せてくれた。
お世話をしてくれた仲居さんはとても可愛らしくて、控えめだけどよく気のつく方だった。
満室だったようなのに他の宿泊客の気配がほとんどなく、とても静かで落ち着いた贅沢な時間を過ごせた。
またいつか行けるだろうか。
普段倹約しているからこその静かな豪遊。
いつも晴れやかな青空ばかりの人生ならたぶん感謝はない。